これまでの研究でツバメが食べている虫の種類は、ヒナが受け取り損ねて巣の下に落ちた虫や、ちょっと乱暴ですが鵜飼みたいにヒナの首を軽く縛り虫を飲み込めないようにする方法で、調べられていました。
最近では糞に残っている食物のDNAを分析して、何を食べているかを調べる技術が開発されています。それで、ツバメ糞でどのくらい分かるものかなと思って試してみました。コロナウイルスの検査でよく聞くPCRという方法でDNAを調べてくれる分析会社にツバメの糞を送ると、フンの中から見つかった虫の一覧を送り返してくれます。
2020年8月上旬に、東京都日野市、多摩市、国分寺市、国立市の5つの巣の下に落ちていた、なるべく新鮮な糞を採集して、あまり予算がないので5つの巣の糞をぜんぶ合わせてDNA分析をしました。すると30種類の虫のDNAが見つかり、どれもツバメが食べそうなサイズの、飛ぶことのできる虫でした。空中で捕まえた虫だけでなく、葉の上にいたところをツバメがつまみ取った虫もいるかもしれません。
こちらが見つかった虫の表です。DNAタイプと書いているのは、分析結果がDNAデータベースにある虫との一致率(%)として得られるためです。たとえばカメムシは「ヨコヅナツチカメムシ」との一致率が90〜93%で8タイプあって、これらはヨコヅナツチカメムシに近縁なカメムシだと思われますが、8タイプの中には同じ種も、別の種もいる可能性があります。DNAデータベースと100%一致した種はチョウの仲間のイチモンジセセリだけでした。
昆虫の種 | 見つかったDNAタイプ |
カメムシの仲間 | 11タイプ |
ハエの仲間 | 7タイプ |
ガガンボの仲間 | 3タイプ |
アブの仲間 | 1タイプ |
ゴミムシの仲間 | 1タイプ |
カゲロウの仲間 | 1タイプ |
ブユの仲間 | 1タイプ |
ウンカの仲間 | 1タイプ |
カツオブシムシの仲間 | 1タイプ |
ゾウムシの仲間 | 1タイプ |
イチモンジセセリ | DNA100%一致 |
この結果について、私の感想です。
- ハエ、ガガンボなどは、ツバメが食べる飛翔性昆虫のイメージに合っています。
- あまり飛翔しないカメムシの出現率が高いことにびっくり。臭い虫だけど気にならないのだろうか。
- 予想していたハチやトンボの仲間がいなかった。
- 「害虫」「不快昆虫」をよく食べてくれている。ツバメは益鳥だ。
ツバメにとって餌になる虫がいることは重要です。バードリサーチの調査では、ツバメやアマツバメなど飛翔性昆虫を食べる野鳥が減っていることが分かってきているので、地域や季節によってツバメがどんな虫を食べているのかを調べて、そうした虫の発生する環境を守ることが必要だと思います。
最後に、この分析方法の欠点も書いておきます。
- ツバメの糞の一部しか採集しないので、たまたまその糞に含まれている虫しかわかりません。
- 分析で虫の種類ごとのDNAの分量は分かるのですが、上記のように糞の一部しか調べられないため、ツバメがどの虫を多く食べるのかはわかりません。
- 糞から見つかったDNAを照合する日本産昆虫のDNAデータベースには、ツバメが食べていそうな虫の分類群(目レベル)で1割程度しかDNAが登録されていません。日本には見つかっているだけで3万種以上の虫がいるので、無理もないことですが。
- 地面に落ちている糞を採集するので、糞に含まれる以外の虫の体の一部が混じっていると、そのDNAが検出されてしまいます。
詳しい分析結果のファイルです。お気づきのことがあればコメントいただけると、ありがたいです。
ツバメの特徴だと思うのですが、餌の選好性はあまり強くなく、場所や時期に合わせてかなり柔軟に餌が変わるような気がします。イチモンジセセリは食われてるのですね。
でも、ハチ類とトンボ類が全く出てないのは意外です。