【質問】 ツバメから人間に鳥インフルエンザに感染することがありますか?
【回答】 ツバメから人間に鳥インフルエンザが感染するのではないかという「風評被害」のために、ツバメの巣が落とされてしまうことがあります。しかし、ツバメから人間に鳥インフルエンザが感染する可能性は、ほとんどありません。
しかしツバメの巣を落とす前に、ツバメから私たちが得ている価値についても考えていただきたいと思うのです。ツバメがいることであなたが得られる精神的な豊かさや、ツバメのヒナの成長を見守る隣人や子どもたちの想い、そういった価値と、限りなくゼロに近い感染の可能性を秤にかけて、 冷静に判断していただくことを願っています。
第一に、鳥インフルエンザの連鎖的な感染が広がっている鳥は、不自然な高密度で飼育されているニワトリやアヒルなどの家禽です。一方で、カモやハクチョウの仲間を除けば、野鳥への鳥インフルエンザの感染例は少なく、特にツバメのような小鳥類(専門的にはスズメ目)への鳥インフルエンザ感染が見つかることは、非常に希です。
第二に、野鳥から人間への鳥インフルエンザ感染が疑われるような事例は見つかっていません。これまでに人間が鳥インフルエンザに感染したケースでは、感染者が家禽と濃密な接触があった場合がほとんどです。感染源が分からないケースでも、人間に感染が起きているのは中国や東南アジアの家禽飼育が行われている地域なので、周囲に漂っている家禽の羽毛や糞を吸い込んだためではないかと感染症の専門家も指摘しています。
第三に、前述のように野生の小鳥類が鳥インフルエンザに感染していた例は大変少なく、さらに繁殖期のツバメは群れにならないので、集団で感染す るようなことは起こらないでしょう。ツバメでは一度だけ、香港の養鶏場のそばで見つかったツバメ1羽の死体から鳥インフルエンザのウイルスが検出されたこ とがあります(ニワトリから蝿などを媒介してウイルスを受けとったのかもしれません)。しかしツバメの習性からすれば、1羽の感染が他のツバメに広がると は考えにくいのです。なぜなら野生のツバメは、飼育されているニワトリやハトのように、狭い場所に閉じ込められて他個体の糞を吸い込むことがないからで す。また、ハクチョウやカモのように、水を通して他個体の糞に接してしまうこともありません。
以上のように、ツバメが鳥インフルエンザに感染している可能性は、限りなく小さなものです。しかしそれでも可能性がゼロでない以上、ツバメの巣を落とした方がよいと考える方もいるかもしれません。たしかに、ゼロに近い可能性を完全にゼロにするという点では、その方が安全には違いありません。
しかしツバメの巣を落とす前に、ツバメから私たちが得ている価値についても考えていただきたいと思うのです。ツバメがいることであなたが得られる精神的な豊かさや、ツバメのヒナの成長を見守る隣人や子どもたちの想い、そういった価値と、限りなくゼロに近い感染の可能性を秤にかけて、 冷静に判断していただくことを願っています。