この記事は2015年4〜8月に発行した週刊つばめニュースを修正したものです。
ヒナが巣立ってツバメの家族がいなくなったあとの巣は、そのままにしておいた方がいいのか、それとも壊した方がいいのかという質問をもらうことがあります。今週は、ツバメの巣についての豆知識をお話ししましょう。巣を壊すかどうかの答えは、ニュース記事のいちばん最後で。
どうして泥で巣を作るのでしょう?
じつは泥で巣を作る鳥はとても珍しくて、ツバメの仲間以外で泥の巣を作るのは、南米のカマドドリくらいかもしれません。ツバメの巣よりもだいぶゴツイ感じの巣が木の上に作られている写真が見つかるはずですが、カマドドリの巣はとても丈夫で、雨に濡れても壊れな いのだそうです。一方のツバメの巣は雨に弱いので、そのことが、ツバメが人家に巣を作る理由のひとつなのでしょう。
ツバメの巣は人間が作った建物以外の場所では、ほとんど見つかっていません。雨の当たらない崖の下にツバメの巣がある写真を見たことがありますが、この世界に人間が広く住むようになる以前、ツバメは雨を避けて、崖下や洞窟の中などに巣を作っていたと考えられています。
それにしても、雨の当たらない場所にしか巣を作れないなんて、不便だと思いませんか? どうしてツバメは泥という独特の材料で巣を作るようになったので しょうか? じつはツバメの祖先が使っていたのはカップ型の巣ではなく、ショウドウツバメのような砂質の崖に堀った巣穴だったようです。ツバメの仲間の DNAを分析すると、ツバメやイワツバメのように泥を固めて巣を作る仲間とショウドウツバメは共通の祖先を持っていて、その祖先に近いツバメの仲間は、い までも巣穴で繁殖していることがわかっています。
つまり、ツバメが泥を巣材に使うのは、巣穴を掘っていた祖先の習性を引き継いでいるからなのです。カップ型のツバメの巣は『巣穴の奥の卵を産む場所だけを再現した形』だったのです。
古巣は子育てによい場所の目印
ツバメの巣は雨に弱いのですが、濡れさえしなければ何年でも利用することができます。巣作りは大変な仕事なので、ツバメは古巣を補修して使うことで体力を セーブすることができますが、じつは古巣にはもっと重要な役目があり、それは、古巣が昨年その場所でヒナを育てたツバメがいるという目印になっているとい うことなのです。「孟母三遷」と言って、孟子の母は育児によい環境を求めて三回も引っ越しをしたという言い伝えがありますが、賢いツバメの母は古巣を見れ ば、そこがよい子育て環境だと分かるようです。ただし子育てに失敗したツバメは、特にメスの方ですが、二回目の子育てや翌年営巣する場所を選ぶときに、失 敗した場所より遠くへ移動する傾向があるそうです。
さて、ツバメにとってよい子育て環境というのは、エサの虫がいることと、天敵が少ないことでしょう。ツバメは古巣を目印に、そうした場所を探すようです。 実際に、このようなツバメの習性を試した実験がアメリカで行われています。ニューヨーク州でツバメの営巣地にあった古巣をぜんぶ取り除いた場所と、古巣を そのままにしておいた場所とを比較したところ、古巣を取り除いた営巣地には、昨年そこにいたツバメは戻ってきましたが、新規にやってくるツバメは少なく、 そのため繁殖するツバメの総数も少なくなりました。
アメリカのツバメは家畜小屋などで集団で巣を作っていることが多いのですが、日本の場合は戸建てやマンションの一軒にひとつの巣があることが多く、少し事 情が異なります。しかし日本の場合も、リングフォーファー萌奈美さんが伊豆諸島で行った調査によると、250m以内の距離に壊れていない古巣が多い場所ほ ど、春の早い時期にツバメやって来たそうです。なお250mというのは、伊豆諸島で調査をしたときにヒナに餌を運んでいたツバメの行動範囲ですが、他の場 所でも、子育て中は巣からあまり遠くへ行かず、このくらいの距離で虫を捕っているようです。
この伊豆諸島の調査では、周りに古巣が多い場所の方が早い時期にツバメが戻ってきたものの、古巣ではなく新規に巣を作ることも少なくなかったそうです。し かし前述のアメリカの調査では、古巣の方が新しく作った巣よりも巣立つヒナの数が多かったといいますから(たぶん古巣を使うツバメの方が繁殖開始が早いた めでしょう)、親ツバメは古巣を再利用することを好んでいると考えられます。
それから、ツバメが目印にしているのは、巣の残骸ではなく、壊れていない古巣です。巣が壊れていればカラスのような天敵に襲われた可能性や、前年に繁殖が行われなかった可能性があるので、形をとどめている巣を目印にしているようです。
さあ、冒頭の質問の答えは、もうお分かりですね。ツバメの巣は壊さずに、翌年まで残しておいてあげましょう。
さて、ツバメにとってよい子育て環境というのは、エサの虫がいることと、天敵が少ないことでしょう。ツバメは古巣を目印に、そうした場所を探すようです。 実際に、このようなツバメの習性を試した実験がアメリカで行われています。ニューヨーク州でツバメの営巣地にあった古巣をぜんぶ取り除いた場所と、古巣を そのままにしておいた場所とを比較したところ、古巣を取り除いた営巣地には、昨年そこにいたツバメは戻ってきましたが、新規にやってくるツバメは少なく、 そのため繁殖するツバメの総数も少なくなりました。
アメリカのツバメは家畜小屋などで集団で巣を作っていることが多いのですが、日本の場合は戸建てやマンションの一軒にひとつの巣があることが多く、少し事 情が異なります。しかし日本の場合も、リングフォーファー萌奈美さんが伊豆諸島で行った調査によると、250m以内の距離に壊れていない古巣が多い場所ほ ど、春の早い時期にツバメやって来たそうです。なお250mというのは、伊豆諸島で調査をしたときにヒナに餌を運んでいたツバメの行動範囲ですが、他の場 所でも、子育て中は巣からあまり遠くへ行かず、このくらいの距離で虫を捕っているようです。
この伊豆諸島の調査では、周りに古巣が多い場所の方が早い時期にツバメが戻ってきたものの、古巣ではなく新規に巣を作ることも少なくなかったそうです。し かし前述のアメリカの調査では、古巣の方が新しく作った巣よりも巣立つヒナの数が多かったといいますから(たぶん古巣を使うツバメの方が繁殖開始が早いた めでしょう)、親ツバメは古巣を再利用することを好んでいると考えられます。
それから、ツバメが目印にしているのは、巣の残骸ではなく、壊れていない古巣です。巣が壊れていればカラスのような天敵に襲われた可能性や、前年に繁殖が行われなかった可能性があるので、形をとどめている巣を目印にしているようです。
さあ、冒頭の質問の答えは、もうお分かりですね。ツバメの巣は壊さずに、翌年まで残しておいてあげましょう。
参考文献
Safran, R. J. 2004. Adaptive site selection rules and variation in group size of barn swallows: individual decisions predict population patterns. American Naturalist 164:121–131.
Shields M. William. 1984. Factors Affecting Nest And Site Fidelity In Adirondack Barn Swallows (Hirundo Rustica). Auk:101:780-789.
Ringhofer Monamie. 2014. Dispersal process of barn swallows (Hirundo rustica) breeding in Izu Islands. PhD Thesis, University of Tokyo, Tokyo, Japan.
Winkler, D. W., & Sheldon, F. H. (1993). Evolution of nest construction in swallows (Hirundinidae): a molecular phylogenetic perspective. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 90(12), 5705–7.
Shields M. William. 1984. Factors Affecting Nest And Site Fidelity In Adirondack Barn Swallows (Hirundo Rustica). Auk:101:780-789.
Ringhofer Monamie. 2014. Dispersal process of barn swallows (Hirundo rustica) breeding in Izu Islands. PhD Thesis, University of Tokyo, Tokyo, Japan.
Winkler, D. W., & Sheldon, F. H. (1993). Evolution of nest construction in swallows (Hirundinidae): a molecular phylogenetic perspective. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 90(12), 5705–7.
(※1) This image was originally posted to Flickr by Dario Sanches at http://flickr.com/photos/10786455@N00/2270719765. It was reviewed on by the FlickreviewR robot and was confirmed to be licensed under the terms of the cc-by-sa-2.0.